Management 3.0 - Align constraints
Chapter 8 : Leading and Ruling on Purpose
前章ではエンパワメントと委譲について見てきたが、全てを投げ出していいわけではなく、守るべき責任がある
前半は境界と方向の定義に関連する 3 つの責任
自己組織化システムの開発
システムの人と資源の保護
グループの目的への方向付け
章の後半 : マネジメントとリーダーシップの違いと目的の重要性について
システムが安定していて活発であるためには規則を調整する必要があるという気づきが重要
セルオートマトンの分類
クラス I : 数世代で死ぬ
クラス II : 安定状態に落ち着く
クラス III : カオス
クラス IV : 複雑
間違った理解
秩序ある組織では、創造性と革新は行われない。 組織の行動は定期的で予測可能
無秩序な組織では、創造性は十分にあるかもしれないが、構造化されておらず予測可能ではない
複雑な組織はその中間
ここから、秩序と統制のバランスを見出す責任がマネジャーにある、と思うところだが、それは間違っている
マネジャーはゲーム設計者ではない
ゲームが生きているシステムと異なるのは、適応がないこと
生きているシステムは変化する
全ての組織は複雑適応系。 規律は随時変更されるし、ゲーム設計自体が参加者にゆだねられているようなもの
マネジャーの仕事は規律を設計することではなく、参加者が規律を設計できるようにすること
ゲーム設計を自分で行ってしまうと、自己組織化に悪影響を与え、システムの創造性や革新性、適応性が損なわれる
自己組織化は無秩序なもので、それだけでは不十分
価値のある方向に導くための方向付けが必要であり、それこそがマネジャーの仕事
著者は、制約の調整 (Alignment of constraint) と呼ぶ
制約の設定ができたら、次のマネジャーの責務はシステムの保護
複雑なシステムは、境界があるときにだけ自己組織化できる
マネジャーの役割は、1) システムを開発し、2) システムを保護し、3) システムを方向付けること
リーダーとマネジャーの区別
マネジメントの本では、リーダーとマネジャーを区別しているものがある
リーダーは 「方向を定義する」 一方で、マネジャーは 「方向を維持する」 とか
「マネジャーはリーダーとなってフォロワーを導くようにすべし」、とか (その本だとリーダーの方がマネジャーより進んでいる扱いになっている)
リーダーとマネジャーを比較するのは女性と人間を比較するようなもので、ナンセンス
リーダーと統治者 (rulers) を比較すべき (どちらもマネジメントの中の責任、あるいは行動様式)
リーダーがマネジメントのひとつなのかどうかは疑問の余地がある気がするな nobuoka.icon
適応リーダーシップ (adaptive leadership or emergent leadership) : 群衆はリーダーがいると部族となる。 人々は自分の自由意志でリーダーを選ぶ この種のリーダーシップは社会システムが適応するときに発生する。 様々な理由で様々な人をフォローできる
ソフトウェア開発でも同様、アーキテクチャレベルでリードを引き受ける人もいれば、機能レベルで引き受ける人もいる (クロスファンクショナルチームでは、このように得意領域に応じて様々なリーダーがたつ方がよい)
リーダーは魅力の力で人々に何をすべきか伝えるが、統治者は権威でもって人々に規則を守らせる
サッカーのチームごとのリーダーと審判みたいなもの
マネジャーはリーダーとしてだけではなく、統治者としての役割も持つ (採用権限など)
統治者は権限レベル 1 から 3 に相当し、リーダーは権限レベル 4 から 6 に相当する
リードと統治のバランスはどのマネジメントレベルでも発生しうる
マネジャーは、リーダーと統治者の両方になる必要は必ずしもない
例えば、サッカーの審判は統治者でありリーダーではないが、各チームのリーダーがリーダーとして振る舞うよう力を与えている : イネーブリングリーダーシップ 3 種類のリーダーシップ
Administrative (governance) : 権威の力、人々に規則を守らせる (マネジャーによって適応される)
Emerging : 魅力の力、人々を導く (誰にでも適応される)
Enabling : マネジャーじゃない人がリードすることを許す (マネジャーによって適応される)
目的 (パーパス; purpose) : なぜ我々はここにいるのか? ハードサイエンスでは目的は考えられないが、社会的な複雑系においては目的は重要
目的はシステムの創出プロパティでありうるので
その目的がなければそもそもそのシステムが存在しえない、というようなもの
人に意識と自由意志があるとすれば、人間には目的があるので、目的を考えないことは不適切 人々は社会システムに意味の層を付け加える
生きているシステムの 3 種の目的
創出的なプロパティは、低位のプロパティを合わせたものではない
組織の目的は、組織を構成する個人の目的ではない
例えば、株主価値の最大化は株主の目的であって、会社の目的ではない
なぜなら株主は会社の資産の所有者ではあるが、マネジャーや従業員は株主の所有物ではない
ソフトウェア開発チームの目的は何?
内発的目的は 「ソフトウェアを開発すること」
社会的な複雑システムなので、自律的な目的も定義できる
そんな内発的目的だけでは戦いに勝つことはできない → 適切な外発的目的の設定が必要
なぜマネジャーがそれをするのか? → マネジャーだけがシステム全体に責任を持っているため
まとめ
自己組織化システムは独自の規律を作ることができる
そんなシステムが機能するために必要なものは制約 (ときに境界と言われる)
マネジャーにとって重要なのは制約を調整すること。 規律全体を設計することではない (人をマネージするのではなく、システムをマネージせよ)
パーパス (目的) も大事
Chapter 9 : How to Align Constraints
制約によって、チームを開発し、保護し、方向付けする
前半は目標設定について
後半は、その中でも開発と保護について (目標設定を方向付けのためだけに用いると考えるマネジャーがいるため)
目標設定について
著者の好みとして、目標は外発的または自律的な目的に使用し、意義は内発的な目的に使用
目的は方向付けにも必要だが、士気向上にも役立つ
チームの最も強い欲求は、リーダーからのビジョン
目標の効果として、チームに 「自分たちのコンテキストを認識」 させる
明示的な組織目標がないと、マネジャーは個人の目標についてのみ考える = システムの他のステークホルダーと同じ振る舞い
マネジャーにはグループの共通目標を定義する責任がある
多くのマネジャーがこれを悪く運用してきたので、アジャイル専門家の間では悪名高い
通常では、トップマネジメントが年間の共有目標を定義し、それが年度末に達成されるとボーナスが配布される
これはアジャイルではない
共有目標 (すなわち外発的な目的) は、その組織のどの個人の目標よりも大きいもの
方向付けにも使われるし、従業員満足度の向上にも使われる
厳密に科学的に測定可能である必要はない
例
信頼性とカスタマーサービスの点で、国内で最も優れていると見なされているバックアップサービスの収益性の高いプロバイダーになること
10 月 31 日までに、製品の最初のバージョンをリリースし、最終四半期の顧客満足度が前四半期から xx だけ向上する
来年末までに、我々の製品が iPhone より優れていると世間に認識される
すべてのチームメンバーが来年の専門試験に合格する
my.example.com が、税控除のオンライン計算に関してインターネット上で最も訪問されるサイトになる
目標について
目標は 1 つだけに絞れるならそれが望ましい (が、困難だと思われるので、複数あってもよい)
目標の基準 (これを全て満たすことは不可能であり、状況に応じて重要なものを選択する)
意味が分かるように、明確かつ理解可能か
カードや付箋に収まるように、単純で簡潔か
成功か判断できるように、管理可能で測定可能か
他者と目標のやりとりをしやすいように、覚えやすく再生しやすいか
実際に達成しうるように、達成可能で現実的か
簡単に達成してしまわないように、野心的で刺激的か
具体的な行動にできるほど、アクション可能で割り当て可能か
実際に責任感を持てるほど、合意されており、コミット可能か
人々が本当に気にするほど、人々に関連性があり、役立つものか
いつそれを実行すべきかわかるように、期限付きで time-specific か
達成時の効果を知覚できるほど効果的で本質的か
人々を最善を尽くす気持ちにさせるほど刺激的で感情に火をつけるものになっているか
大きな絵を描くことを助けるほど、示唆的でビジョナリーか
企業価値やチーム価値、または個人的価値の上に構築されるように、価値に基づいており根本的なものか
後でその適用力を再評価できるように、再検討可能で評価可能か
アジャイル目標設定と従来の目標設定の違いは、目標の基準がコンテキストに依存しなければならないこと
「ノルウェーでの休暇を楽しむ」 という目標がある場合に、その基準として笑った回数などを使うか?
来年競合相手を倒すことを目標にするなら、その基準として売上などの数値を使うか?
意思決定のためだったり、メンバーの鼓舞のために必要な目標設定を行うこと
重要なのは、今すぐに決定をしなければならない人たちを助けること
目標は、常に人の内発的な欲望に紐づけること (外発的な動機づけに使わないこと)
ビジョンとミッション
ビジョンとミッションは、異なるが密接に関連している目標を特定する方法
著者の解釈
それらは外を向いており、システムが世界に持っている場所とそれが環境にもたらす変化を扱う
それらは内向きで、システムの内部ダイナミクスを操作する
ビジョンは望ましい最終状態についてであり、ミッションはそこに到達する方法について
例
地球上の平和はビジョンで、テロ撲滅は使命
著名な作家としての会議での基調講演は著者のビジョンで、この本を完成させることが著者の使命
ビジョンは製品やプロジェクトに対して定義して、ミッションを組織やチームに対して定義するのがおすすめ
ミッションやビジョンは、従業員が日常の意思決定に使えるようなものでなければならない
会社のビジョンやミッションを見ると、簡潔でなく刺激的でもなく、覚えにくくて日常の意思決定に使えないようなものもある
自己組織化チームが自分たちの目標を持っている場合
ほとんどの場合は目標を持っていないし、持っていても非公式に持っている
目標を尋ねて、もし目標があるならそれを明文化する (自分たちの目標を持たせないことはしてはいけない)
ただし、自分たちの目標を作るように言うことはしないように (それは自己組織化ではない)
あなたが定義したチームの目標とチーム自身の目標が衝突するときは解決が必要
一方が他方に常に勝るということはない
チームの開発と保護について
権限の境界リスト (boundary list of authority) を作ると良い
適切なマネジメントの立場 (management angle)
一部の組織は管理が強すぎるが、一部の組織は管理が緩すぎる
パイロットをサルのように扱うべきではないが、サルに飛行機を操縦させるべきでもない
重要な決定領域 (例えば 「テスト手順の決定」) について、実際の権限と希望される権限を比較して解決する
メンバーが官僚主義的な規則に不満を感じているようであれば、(成果の質にコミットする前提で) 緩めるべき
成果の質が期待水準に達していないようであれば、チームの権限を弱め、その質を高められる人に権限を集中すべき
自己組織化チームの開発と目的に向けたチームの方向付けは大事だが、人と資源の保護も忘れてはならない
同僚からの攻撃がなされる組織も当然ながら存在する
マネジャーはそういうから人を守る責任がある
どうするか? 質問する : 本人に 「職場の友人は誰ですか?」 (もちろん職場で友人が居なくても問題はない)、周りに 「周りの人も平等に扱われていますか?」 や 「周りで誰が困難に直面していますか?」
共有資源の保護も
例えばオープンオフィス
調査によると、共有リソースの持続可能性には 4 つの要素 (4 つの I と呼ばれる) が必要
Institutions (managers) : 共通のルールの受け入れを増やすために、競合するシステム (チーム) 間の信頼関係の構築に取り組む。
Information (物理的・社会的環境への理解を深める) : 不確実性を減らすため (不確実性は自己利益へのバイアスをもたらす)
Identity アイデンティティ (またはすべての参加者を含む社会的な 「帰属」 の必要性) : これにより、コミュニティの感覚が向上および拡大し、競争が減少
Incentives (自身を改善する欲求を扱う) : 過剰使用を罰し、責任ある使用に報いる
品質の制約
品質の問題は、多くの場合、誰もが単純に想定している
よく知られている制約の三角形 (triangle of constraints) やプロジェクト管理の三角形 (project management triangle) によって示される
この三角形には、3 つの重要な制約 (スコープ、コスト、およびスケジュール) がリストされていますが、品質はリストされていない
ここら辺の話がわからないのだけど、「誰もが当然考慮するものだと考えられているため、制約に入ってない」 ってことなのかな? nobuoka.icon
顧客は高品質の製品を手に入れると想定し、マネジャーは従業員が高品質な製品の製造方法を知っていると想定している
そして、80 % の人が実際に自分の仕事の質は平均を上回っていると信じているが、残念ながらそんなことはない
適切な制約の設定により、自己組織化は多くの品質問題を解決できる
マネージャーは自分が測定したものを手に入れると言われることがある
期限の厳守を強調すればそれが行われ、品質を強調すると時間をかけてもそれを構築する
両方の制約を強調すれば、それが満たされるだろうが、製品には、顧客が要求した機能の半分未満しか含まれないこともありうる
Iron Square of Constraints で表現
https://gyazo.com/d7c3d59ca79b70a8656cfdd7bf777a7c
マネージャーとしてのあなたの仕事の一部は、自己組織化チームに課す制約の種類について本当に考えること
求めているものは手に入るが、求めていないものは手に入らない
多くの場合、マネジャーは製品の品質に対する明確な制約を定義することを忘れる
Israel Gat は、マネジャーが従業員に対して持っている義務を定義するために社会契約の考え方を用いる方法を説明 Team, my overarching organizational objective is to preserve our team and its institutional knowledge for our corporation and its customers for years to come. We will achieve this goal by enhancing our software engineering prowess to the level that the resultant benefits will outweigh the repercussions of the current financial crisis. ... Whether you will or will not be with the company in the future, I acknowledge your need to develop professionally as Agile practitioners and commit to invest in your education/training. 社会契約は、人々の基本的な必需品に対処する必要
社会では、それらは食べ物、避難所、安全性のようなものだけでなく、言論の自由、基礎教育、平等、そして医療
組織の文脈では、意見を述べる自由、専門能力の開発、無差別、気分が悪いときのちょっとした助けなど、同様のこと
まとめ
自己組織化チームには、マネージャーが割り当てる共通の目標が必要
この目標を最もよく定義する方法 (たとえば、単純、測定可能、達成可能など) は、コンテキストによって異なる
最も重要なのは、目標が報酬に関連していないこと、それがチームメンバーの仕事を導くようにうまく伝達されていること
チームが独自の自律的な目標を定義できるようにすることも賢明
もしそうなら、あなたの割り当てられた目標とその自律的な目標に妥協しようとすることが重要
自己組織化チームは、明確な境界リストを持つことで恩恵を受ける
このリストは、チームが自分でできることと、それらのアクティビティを実行する権限があるレベルを定義する
自己組織化チームは、自分のチームメンバーや環境をチームから自動的に保護することはない
管理者には個人や共有リソースを監視する責任がある